掲載日:令和2年9月30日
子どもがいない方が遺言書を書いておくべき理由をお話しする前に、まずは原則どうなるか、つまり遺言書を書かずに亡くなった場合、どうなるのかをおさらいしておきましょう。
子どもがいない方が亡くなった場合、配偶者がいらっしゃれば配偶者は必ず相続人となります。
それに加え、直系尊属(親や祖父母のことをいいます)がいらっしゃれば直系尊属が、直系尊属がいなければ兄弟姉妹が相続人となります。
そして、亡くなられた後の不動産の名義変更や預貯金の手続きなどは、相続人全員が実印で押印した遺産分割協議書及び印鑑証明書が必要となってきます。
遺産分割協議は相続人全員でしなければなりません。
誰か一人の押印でも欠けていたら無効となってしまいますので、注意しなければなりません。
子が相続人であるケースと比べ、子どもがいない方では相続人全員から実印を貰うことが大変になりがちです(直系尊属が相続人になるケースはあまりありませんので、以降は兄弟姉妹が相続人になるケースを想定してお話ししていきます)。
高齢で亡くなった場合は、兄弟姉妹も高齢であるのがほとんどだろうと思います。
もし兄弟姉妹ですでに亡くなっている方がいれば、その子(甥や姪)が相続人となります。
相続人がどんどん増えていくことが考えられるわけです。
そうなると、単に印鑑を貰う作業が大変になるだけでなく、財産をよこせという相続人が出ないとも限りません(法律上権利はあるのですから当然です)。
そして、相続人の中に認知症などにより判断能力が低下している方や、行方不明者の方がいる場合などはさらに厄介です。
ここで詳細を述べるのは避けますが、判断能力が低下した方や行方不明者、未成年者などが相続人にいる場合、遺産分割協議をするにあたって複雑な手続きを家庭裁判所にて行わなければなりません。
相続人が増えれば、こういった方が現れるリスクも高まってきますよね。
こうなると、印鑑を貰う以前に遺産分割協議をするにも一苦労です。
遺言書があれば、そもそも遺産分割協議をする必要がありません。
相続人が何人いようが、認知症になってしまった人や行方不明者がいようが全く関係ありません。
遺言書を使って不動産の名義変更や預貯金の手続きにすぐ取り掛かることができます。
もちろんケースにもよりますが、遺言書が有るのと無いのとではすごく大きな差が出てきます。
私自身、相続人が増えすぎてしまったり、判断能力が低下している方が相続人にいたりで、「遺言書さえあれば...」というケースを数多く経験してきました。
遺言書を書くことの重要性、お分かりいただけたのではないでしょうか。
さらに特筆すべきは、遺言書を書くにあたって懸念材料となる遺留分の心配がないということです。
遺留分とは、ざっくりいうと、相続人に対し法律上認められた最低限の取り分のことをいい、遺言書によって自身の取り分が少ないあるいは全くなくなってしまった場合は、財産を受け取った人に対し、一定分請求することができるのです。
遺留分を請求する権利のことを、遺留分侵害額請求権といいます(最近法改正があり名称が変わりました。以前は遺留分減殺請求権といっていました。)。
そしてこの遺留分侵害額請求権ですが、認められているのは子及び直系尊属のみで、兄弟姉妹には認められていません。
つまり、兄弟姉妹から遺留分を請求されることはないのです。
ですので、子どもがいない方は、遺留分の心配をすることなく、自身の思うままに財産を渡すことが可能なのです。
上記のようなメリットがありますから、子どもがいない方、なかでも全ての財産を配偶者に相続させたいと考えている方は、遺言書を書くことを強くおすすめします。
遺言書を書いておけば、手軽に、かつ確実にご自身の意志を実現させることができます。
遺された配偶者の方が遺産分割協議で苦労するかもしれません。
専門家に頼めば、多額の費用がかかってしまう場合も少なくありません。
遺言書というのは、ご自身はもちろんのこと、遺された大切な方のためにもなるのです。
ぜひ皆さま、遺言書の作成を検討されてはいかがでしょうか?