掲載日:令和3年3月8日
タイトルだけでは何のことかよく分からないという方もいらっしゃるでしょう。
まずは例を挙げます。
Eさんは病気や障害といった理由で判断能力が十分ではないため、兄弟姉妹であるCさんがEさんの後見人になっているというケースです(Cさんを後見人というのに対し、Eさんを被後見人といいます)。
このケースで、Aさんが亡くなった場合、相続人はBさん、Cさん、Dさん、Eさんの4人です。
判断能力が十分ではないといっても、Eさんにも相続する権利はもちろんあります。
これが、後見人と被後見人が共同相続人である場合、です。
このケースで、法定相続分ではない形で相続したいとなった場合(例えば遺産はすべてBさんが相続するといったように)、遺産分割協議をすることになるわけですが、Eさんは判断能力が十分ではありませんので、遺産分割協議に参加することはできません。
しかし、遺産分割協議は相続人全員でしなければならないことになっているため、問題になってきます。
こういったケースでは果たしてどうなるのか、あるいはどうすればいいのかというのが今回のお話しです。
被後見人が遺産分割協議に参加できないというのは、被後見人が契約できないというのと同じ理屈です。
ただし、後見人が代理することによって、契約をすることは可能です。
なので、遺産分割協議も後見人が代理すれば問題ないのではないか?と思われるかもしれません。
しかし、これは誤りです。
後見人と被後見人が共同相続人である場合に、後見人が被後見人を代理して遺産分割協議をすることは、法律で禁止されています。
なぜかというと、契約の場合とは違い、後見人と被後見人との間には利害関係があるからです。
詳しく説明していきます。
後見人と被後見人が共同相続人である場合、後見人(上記の例におけるCさんと置き換えます)は、以下の二つの地位が併存している状態となります。
① Aさんの相続人としての立場
② Eさんの後見人としての立場
要は、CさんはAさんの相続人であるのと同時に、Eさんの後見人でもあるということです。
ここまでは大丈夫でしょうか。
そしてこの状況、よく考えていただくとCさんとEさんには利害関係があるということがお分かりになると思います。
CさんがEさんの後見人である立場を利用し、自身に有利な内容の遺産分割協議をしないとも限りません。
もしEさんの判断能力が十分であったら、Cさんの主張に反対することも可能ですが、CさんがEさんを代理するとなると、そうもいきません。
これでは良くないということで、こういった行為(利益相反行為といいます)は、法律で禁止されているのです。
では代理できないとしたら一体どうしたらいいのでしょうか。
結論から言いますと、遺産分割協議をするために被後見人について特別代理人と呼ばれる人の選任をしなければなりません。
特別代理人とは、読んで字のごとく「遺産分割協議をするために選ばれた特別な代理人」のことをいい、この特別代理人が、被後見人を代理して遺産分割協議をすることになります。
遺産分割協議をするに先立ち、もう一つ手続きが必要になってくるわけです。
ちなみに、この特別代理人を選ぶ手続き、家庭裁判所で行います。
正直いうと結構面倒な手続きですし、なにより選任の申立てをしてから特別代理人が選任されるまでにかなりの時間がかかります(1、2ヶ月程度)。
その間、遺産分割協議を進められないわけですから、不動産の名義変更や預貯金の手続きなども一切できないということになります。
このことはぜひ覚えておいていただけたらと思います。
すでに相続が発生してしまった場合は、特別代理人の手続きを避けることは基本的にできません(どうしても避けたいなら法定相続分で相続するしかありませんが、現実的ではないでしょう)。
ただ、生前に対策をしておけば、未然に防ぐことはできます。
一番は、遺言書を作成しておくことです。
上記の例で、Aさんが遺言書を作成していれば、そもそも遺産分割協議をする必要がありません。
よって、その前提である特別代理人の手続きも当然不要となります。
遺言書を使って、すぐに不動産の名義変更や預貯金の手続きが可能ですので、手間や時間といった負担を大きく軽減することができます。
また、特別代理人の選任は特殊な手続きですので、司法書士や弁護士といった専門家に依頼することになろうかと思いますが、そうなるとそれなりの費用もかかってきます。
しかし、遺言書があれば、その費用も当然浮きます。
遺言書を作成するメリットは非常に大きいです。
上記の例のように、近い親族の方が後見人をしている場合は、特別代理人の手続きが必要になるケースに該当する可能性が高いので、遺言書を作成し、万が一にすぐに対応できるようにしましょう。
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