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親権者の一方に利益相反関係のある場合における代理の方法

親権者の一方にのみ利益相反関係がある場合どうなるか

親権を行う父または母とその子との利益が相反する行為については、その子につき特別代理人を選任しなければなりません(民法第826条第1項)。

 

では、親権者である父または母の一方に利益相反関係があり、もう一方には利益相反関係が無いという場合に、利益相反関係のない親権者が単独で代理できるのでしょうか。

 

民法には、父母の一方が親権を行うことができないときは他の一方が行うという規定がありますので(第818条第3項但書)、その規定に則って利益相反関係のない親権者が単独で代理することができるようにも思えます。

 

しかし、この点については判例があり、親権者たる父母の一方に民法第826条第1項にいう利益相反関係があるときは、利益相反関係のない親権者と同項の特別代理人とが共同して子のための代理行為をなすべきであるとされています(最一小昭和35年2月25日民集14巻2号279頁)。

事例検討

では、どのようなケースが上記の「親権者である父または母の一方に利益相反関係があり、もう一方には利益相反関係が無いという場合」に該当するのでしょうか。

 

例えば、相続税対策のため未成年の孫を養子に入れていたが、孫が成年になる前に養父母双方が死亡したため、死後離縁により実親の親権を復活させた場合が考えられます。

 

長男Aと次男Bが相続人であり、さらに長男Aとその妻Cの間の子であるDを養子に入れていたというケースにおいて、養親双方が亡くなったとします。

 

このケースでは、養親双方が亡くなったとしてもDにつきAとCの親権は回復しません。

 

ですので遺産分割協議をするには、未成年後見人を選任するか、死後離縁によりAとCの親権を復活させるという方法をとらなければなりません。

 

もし死後離縁によりAとCの親権を復活させたという場合、Aは共同相続人であるためDとは利益相反関係にあたります。

 

一方、Cは共同相続人ではなくDとは利益相反関係にはあたりませんので、このケースは上記の「親権者である父または母の一方に利益相反関係があり、もう一方には利益相反関係が無いという場合」ということになります。

 

一見、CがDを単独で代理し遺産分割協議ができそうですが、上記判例により特別代理人の選任が必要となります。

 

つまり、共同相続人であるAとBに加え、C及び(Aに代わる)特別代理人が共同してDを代理し、遺産分割協議をすることとなります。