遺言書は若い人ほど書いておいた方がいい?

はじめに


若い人ほど遺言書を書くべきである、私は常々そう思っています。

 

結婚した、家を買ったなどといった人生の大きな節目を迎えた場合にはなおさらです。

 

なぜ若い人ほど遺言書を書くべきだと思うのかというと、若い人というのは以下のケースに該当していることが多く、万が一のことがあったときに相続手続きが面倒なことになる可能性が高いからです。

  • 結婚しているが、まだ子どもがいない
  • 結婚して子供がいるが、子どもがまだ未成年

まずは、こういったケースで万が一のことがあったらどうなるのかについてお話ししたうえで、若いうちに遺言書を書くことでどういったメリットがあるのかをご説明していきます。

万が一のことがあったらどうなる?(その1)


まずは、結婚しているがまだ子どもがいないというケースについて説明していきます(未成年の子どもがいるという方は、その2まで読み飛ばしていただいて構いません)。

 

結婚はしているが子どもがいないという方が亡くなった場合、相続人となるのは配偶者だけではありません。

 

亡くなった方に直系尊属(親や祖父母のことを指します)がいる場合、直系尊属も、配偶者とともに相続人となります。

 

そして、相続人が複数人いる場合、遺産をどのように分け合うか相続人全員で話し合い(いわゆる遺産分割協議)をする必要があります。

 

相続人全員の実印と印鑑証明書がない限り、預貯金の手続きや不動産の名義変更などをすることはできません。

 

一方、直系尊属がすでに亡くなっている場合は、今度はくなった方の兄弟姉妹が相続人となります。

 

遺産分割協議及び相続人全員の実印と印鑑証明書が必要となることは、直系尊属が相続人となる場合と同様です。

 

つまり、配偶者の方は、相続手続きのために義両親や義兄弟などの協力を仰がなければいけないのです。

 

関係性はそれぞれでしょうから一概には言えませんが、場合によっては配偶者の方にとってかなり負担になってしまうことも考えられます。

 

関係性が良好であればいいでしょう。

 

しかし、そうでなかった場合には、争いとなってしまう可能性もあります。

 

仮にそれまで関係性が良好であったとしても、遺産相続となると争いになるということも決して珍しくはありません。

 

いかがでしょうか。

 

自身に万が一のことがあったときに遺産は配偶者に相続させたいと考えていても、それがうまくいかないというリスクが決して小さくはないのです。

万が一のことがあったらどうなる?(その2)


次に、結婚して子どもがいるがまだ未成年というケースについて説明していきます。

 

例を挙げてご説明しますが、こちらは少々難しいので、頑張ってついてきてください。

 

まだ若いAさんが不慮の事故で亡くなり、配偶者であるBさんと未成年の子であるCさんが遺されたとしましょう。

 

この場合、Aさんの相続人はBさんとCさんになります。

 

そして、その1でも触れましたが、Aさんの遺産を法定相続分と違った分け方をするには遺産分割協議をする必要があります。

 

ここで問題が出てきます。

 

Cさんはまだ未成年ですが、実は未成年者は遺産分割協議に参加することが法律上認められていません(未成年者が契約できないのと同じ理屈です)。

 

これでは遺産分割協議ができなくなってしまいます。

 

その一方で、親であるBさんがCさんを代理して遺産分割協議をすれば良いのでは?とも考えられます。

 

しかし、BさんがCさんを代理して遺産分割協議をするとなると、実質Bさんが一人で遺産分割協議をするということになる、というのはお分かりいただけるかと思います。

 

実は、ここにも問題があるのです。

 

Bさんには、Aさんの相続人としても立場Cさんの代理人としての立場が併存しているということになり、この二つの立場は利害関係にありますが、実はこういった親権者と子どもの利益が相反する行為というのは法律で禁止されています。

 

遺産分割協議においては、未成年者は参加することができず、さらには親が子を代理して遺産分割協議をすることも認められていないのです。

 

ではどうしたらいいのでしょうか。

 

この場合、家庭裁判所において、特別代理人の選任の手続きをする必要があります。

 

そのうえで、選任された特別代理人(仮にDさんとしましょう)が、子どもに代わって遺産分割協議をすることになります。

 

つまり、BさんとDさんが遺産分割協議をするということです。

 

なんだか面倒ですよね。

 

しかし、特別代理人の選任は遺産分割協議の前提であるため、選任の手続きをしている間は預貯金の手続きや不動産の名義変更などは一切進めることができません。

 

相続人に未成年者がいる場合、相続人全員が成人である場合と比べ相続手続きが面倒なことになってしまうのです(参考記事:相続人に未成年者がいる場合の遺産分割協議)。

遺言書を書くメリット


ここまで万が一のことがあった場合どうなるのかを述べてきました。

 

それでは、遺言書を書くことで何が変わるのでしょうか。

 

遺言書を書くことの最大のメリット、それは

 

遺産分割協議をする必要がない

 

ということです。

 

遺産分割協議をしなくても、亡くなった時点で遺産は受遺者(遺産を受け取る人のことをいいます)のものとなります。

 

つまり、他の相続人に対し実印や印鑑証明書をもらったり、特別代理人の選任をする必要が一切ないのです。

 

預貯金の手続きや不動産の名義変更も、遺言書を利用しスムーズにおこなうことができます。

 

遺言書があるのとないのとでは、天と地ほどの差があります。

 

実際の相続手続きに関わる身として、よく痛感するところです。

 

どのようなケースでも、遺言書があれば相続手続きは相当ラクになるのですが、特に若い方が若いうちに遺言書を書いておくことで、そのメリットをより享受できます。

 

これが、若い人ほど遺言書を書くべきと私が考えている最大の理由です。

 

遺言書を書くこと、ぜひ検討してみてください。

若いうちは自筆証書遺言で十分でしょう


遺言書を書くことの重要性はご理解いただけたのではないかと思いますが、ここで遺言書は主に自筆証書遺言公正証書遺言の2つに分けられることについて説明しておきます。

 

自筆証書遺言とは、手書きの遺言書のことをいいます。

 

公正証書遺言とは、公証役場という機関で作成する遺言書のことをいいます。

 

自筆証書遺言と公正証書遺言では、作成方法やかかる費用などに大きな違いがあるのですが、本題とは逸れますのでここでの説明は割愛します。

 

では本題に移りますが、若いうちの遺言書は、手書きの遺言書を選択されるのがよいかと思います。

 

一番の理由は、書き換えが容易だからです。

 

若い方については、新たに子が生まれたりと、相続関係に変化が起こりえますし、財産についても変化が生じやすいかと思います。

 

お気持ちの変化もあるでしょう。

 

手書きの遺言書であれば、新たに書き直せばよいだけなので、書き換えがラクです。

 

もちろん公正証書遺言でも書き換えは可能ですが、その都度公証役場で手続きをしなければなりませんし、費用もかかってしまいます。

 

ですので、まだお若いうちは手書きの遺言書で十分かと思います。

掲載日:令和4年7月12日

最終更新日:令和5年4月20日